はじまりは、モノクロだった。
トマトの赤、卵焼きの黄、ホウレン草の緑。彩りを消して、見えてくるものがある。
弁当というその小さな空間から、作り手の息づかいが聞こえる。食べる人と、作る人。弁当には、その人の暮らしや家族の姿までを映し出す不思議な魅力があった。
モノクロで弁当を撮る。食べる人と、弁当の写真を2枚組で並べる。「ニッポン チャチャチャ」は、日本全国をまわり、これまで150の弁当とそれを食べる人との出会いがあって生まれた作品だ。
実は、後で気づいたことがある。友人とその部屋を撮った「四角い宇宙」という作品。これは、’89年と’99年の10年の年月を経て、同じ人物を彼らの部屋で撮影したものだ。部屋という小さな空間を通して「人」が見える。部屋と弁当。
どちらも、普段他人には見せることのない謎めいた存在である。それを覗き見る喜び。
小さな宇宙という点で、弁当も部屋も、僕にとってはいつまでも追い続けたいテーマである。